フィナステリド
フィナステリドとは
フィナステリドとはテストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換する II 型 5-α 還元酵素に対する阻害剤である。1)
AGAの治療薬として有名な「プロペシア」は、このフィナステリドを主成分として作られた内服薬ですが、2015年にジェネリック医薬品(※)として『フィナステリド錠』が発売されました。今回はその効果や副作用をご紹介しましょう。
※ジェネリック医薬品:先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認された薬品の事。詳しくはこちらをご覧ください
・背景
「フィナステリド錠」は、AGA治療薬として日本で最初に発売された「プロペシア」と同様の成分が配合され、効果が認められている後発医薬品です。フィナステリドは、もともと前立腺肥大という病気の治療と緩和に使用されている「プロスカー」と呼ばれる薬に含まれている成分でした。プロスカーを使用していた人に現れた副作用として発毛の効果があることが認められたことで、その後AGA治療薬としての開発が進められることになリました。その後、1997年にAGAの治療薬として、米国食品医薬局(FDA)から許可が下り、「発毛剤」として世界中で販売されるようになりました。
・薬理効果
AGA※の原因はテストステロンと呼ばれる男性ホルモンと還元酵素5αリダクターゼが結びつくことで生成される「ジヒドロテストステロン(DHT)」です。DHTの作用によって毛周期※の成長期が短くなり、毛包がミニマム化する事で抜け毛の原因になります。フィナステリドはこの還元酵素5αリダクターゼの作用を妨げることでDHTの生成を抑制する効果があるため、乱れてしまったヘアサイクルや頭皮環境を正常に戻し、抜け毛の進行を防止してくれる効果があるのです。
※毛周期についてはこちらをご参照ください。
※AGAについてはこちらをご参照ください。
・用法及び用量
男性成人には、通常、フィナステリド1.0mgとして1日1回経口投与する。
<用法及び用量に関連する使用上の注意>
3ヵ月の連日投与により効果が発現する場合もあるが、効果が確認できるまで通常6ヵ月 の連日投与が必要である。また、効果を持続させるためには継続的に服用すること。
(解説) 本邦及び海外で実施された臨床試験において、本剤は投与開始後 12 週間で治療効果が認められた。個々の患者により効果の発現時期は異なるものの、本剤の治療効果を評価するには、通常 6 ヵ月間は本剤の投与を継続する必要があると考えられる。
・効果
フィナステリド(1 mg/日)を用いた、414 名の日本人男性を対象とした6ヶ月の研究において、頭頂部の写真撮影による効果判定では58%が軽度改善以上の効果を認めた。4)引き続き1mg/日投与を継続した非ランダム化比較試験では、2年間および 3年間の内服継続により、軽度改善以上の効果が78%の症例で得られ、その率は増加傾向を示した。
さらに801名の日本男性を対象とした研究において、フィナステリド(1mg/日)5年間の内服継続により写真評価において効果が99.4%の症例で得られた。40歳未満の症例、重症度の低い症例でより高い効果を示した。2) この結果を受け、ガイドラインでは男性型脱毛症に対するフィナステリ ド内服の発毛効果に関して、“高い水準の根拠があるので内服療法を行うよう強く勧める”と結論づけています。
しかし発毛効果には個人差があり、治療薬の効き方は患者さまの体質や薄毛の進行具合によっても異なります。人によっては2、3ヶ月で効果が現れることもあります。ガイドライン上では効果が実感できるまで少なくとも6カ月程度は内服を継続し効果を確認すべきである。3)これは、フィナステリドによって乱れたヘアサイクルが正常な状態に戻るのに時間がかかるためと考えられます。また、フィナステリドに関しては、飲み続けることで身体に耐性ができてしまい依存状態になるということはないので、安心して飲み続けることができる薬です。
やめるとどうなるか?
ある程度発毛を実感できたからと言って薬の投与をやめてしまうと、AGAの原因物質であるDHTの生成が抑えられなくなりまたヘアサイクルが乱れ、抜け毛が増える状態に逆戻りしてしまいます。その為AGA治療薬に関しては、症状の改善だけでなく、その後発毛した髪を維持するためにも薬を服用し続ける必要があります。
副作用
フィナステリドの副作用として、リビドー減退、勃起機能不全、 射精障害等の性腺機能の低下があげられます。しかし実際にフィナステリド (1 mg/日,0.2 mg/日)を用いた、414 名の日本人男性を対象とした6ヶ月の研究とそれに続く 、374 名の日本人男性を対象としたフィナステリド(1 mg/日)を用いた2年間の研究において、0.2 mg/日 から 1 mg/日およびプラセボから1 mg/日に移行した患者で性機能に関する副作用はないと報告されており、5)安全な薬と考えられます。有害事象の報告も患者の自己申告によるものなので、実際には別の要因によるものを、フィナステリドの副作用だと認識してしまうケースが多いと考えられます。
その他に過敏症として瘙痒症、蕁麻疹、発疹、血管浮腫(口 唇、舌、咽喉及び顔面腫脹を含む)や
肝障害(AST上昇、ALT上昇、)が頻度は明らかではないがまれにあらわれる事が報告されています。
副作用は薬を服用してすぐに表れるものもあれば、長期的に服用することで現れるものもあり、服用する方の体調によっても変わってくるため、少しでも身体に異変を感じた時には、すぐに専門医に相談しましょう。
フィナステリドの検査値への影響
フィナステリド(1 mg/日)を用いた、355名の男性6ヶ月の研究において、前立腺癌のマーカーである血清PSA濃度が約50%低下することが示された。そのため、フィナステリドを投与中の男性型脱毛症に対し、前立腺癌診断の目的で血清PSA濃度を測定する場合は2倍した値を目安として評価すべきである。1)その為、かかりつけ医受診や健診等の際は必ずフィナステリドを内服している事を忘れずに伝えましょう。
フィナステリドの注意点
①女性・子どもは服用できない
ザガーロは男性型脱毛症への適応であるため、女性が服用するメリットはありません。それだけではなく妊娠中や授乳中の女性が体内に取り込むと、赤ちゃんに悪影響を及ぼす恐れがあります。そのため女性の服用は禁止されています。また20歳未満で服用した場合の有効性や安全性は確立しておらず、子どもも服用できません。
②肝機能に障害がある人は服用できない
ザガーロは肝臓で代謝されることから、肝機能に障害がある方への投与が禁じられています。
③経皮吸収に気をつける
ザガーロは経皮吸収されるため、飲み込まなくても、カプセルの中の薬剤に接触しただけで影響を受けてしまいます。そのため女性や子どもが薬剤に触れることがないよう注意が必要です。触れてしまった場合はただちに石鹸と水で洗うようにしてください。またカプセルを開けて中身を飲もうとすると、女性や子どもが飛散した薬剤を取り込んでしまう可能性があるため、カプセルのまま飲んでください。
④服用期間から6か月先まで献血は控える
服用中は献血をすることができません。服用をやめてからも、6か月ほど期間をあける必要があります。
⑤飲み合わせに注意
一部の薬には、ほかの薬との飲み合わせによって副作用や効果が薄れてしまうことがあります。ザガーロに併用して飲んではいけない「併用禁忌薬」はありませんが、注意が必要な「併用注意薬」はあるため、常用している薬がある場合は、必ず医師に伝えましょう。
まとめ
・フィナステリドはこの還元酵素5αリダクターゼの作用を妨げることでDHTの生成を抑制し、結果として抜け毛の進行を防止する。
・5年間の内服継続により99.4%の症例で効果が得られた。
・個人差はあるものの、効果が実感できるまで少なくとも6カ月程度は内服を継続し効果を確認すべきである。
・内服をやめるとDHTの生成が抑えられなくなりまたヘアサイクルが乱れ、抜け毛が増える状態に逆戻りしてしまうため、髪を維持するためにも薬を服用し続ける必要があります。
・副作用として性腺機能の低下が挙げられるが、実際の研究では性機能に関する副作用はないと報告れている。しかし服用する方の状態によって変わるため、少しでも身体に異変を感じた時には、すぐに専門医に相談しましょう。
・前立腺癌診断の目的で血清PSA濃度を測定する場合は2倍した値を目安として評価すべきである。
参考文献
1)D’Amico AV, Roehrborn CG: Effect of 1 mg/day finasteride on concentrations of serum prostate-specific antigen in men with androgenetic alopecia: a randomised controlled trial, Lancet Oncol, 2007; 8: 21―25.(レベル II)
2) Yoshitake T, Takeda A, Ohki K, et al: Five-year efficacy of finasteride in 801 Japanese men with androgenetic alopecia, J Dermatol, 2015; 42: 735―738.(レベル III)
3)Price VH, Menefee E, Sanchez M, Kaufman KD: Changes in hair weight in men with androgenetic alopecia after treatment with finasteride(1mg daily): three- and 4-year results, J Am Acad Dermatol, 2006; 55: 71―74.(レベルII)
4)Kawashima M, Hayashi N, Igarashi A, et al: Finasteride in the treatment of Japanese men with male pattern hair loss, Eur J Dermatol, 2004; 14: 247―254.(レベル II)
5)川島 眞,溝口将之,五十嵐敦之ほか:男性型脱毛症 (AGA)に対するフィナステリドの長期投与(3 年間)試 験成績 多施設共同オープン試験,臨皮,2006; 60: 521― 530(レベル III)